なぜ!?関東に人が多すぎるワケは?平野の秘密【シリーズ日本の実像】
- うらのりょうた
- 6月3日
- 読了時間: 6分
更新日:4 日前
なぜ関東や関西にはこんなに人が多いんだろうと思ったことはありませんか。日本の人口は国土のわずか25%しかない平野に集中しています。
また、私は子どものころ、長野県や東北は深い山、大自然というイメージがありましたが、実際に訪れると高層建築が立ち並ぶエリアもあります。なぜこんなところがこんなに栄えているのかと疑問に思った記憶があります。
今回は日本の平野や盆地の秘密に迫ります。
平野面積ランキング
空から地形を見れば一目瞭然です。航空写真で日本を見てみましょう。まずは目につくのが広大な関東平野。平野面積ランキングを見てみると、関東平野がダントツで1位であることがわかります。「東京はなるべくして都会になったんだなあ!」と感じさせられます。東京一極集中も文句のつけようがありません。

関東に人が集まっているのは1600年の関ヶ原の戦いで西軍が負けたことや、明治政府が新体制を象徴する都市として東京に首都機能を集約したことによる政治的要因だけでなく、地理的要因も大きいです。
関東平野は徳川家康が江戸に来るまでは、利根川、荒川、渡良瀬川が流れ込む大湿地帯でした。懸案事項だった流域変更を可能としたのが千葉県野田市関宿(せきやど)にあった関宿台地。ここを開削して利根川と渡良瀬川の流れを銚子から太平洋に注ぐ流域に変更。この歴史的な大工事により、関東平野は日本一の平野となり、大穀倉地帯に変貌。関東に移封された家康が、めげずに領内のフィールドワークを続けた成果でした。
航空写真を見ると、関東以外も、人口の多い都市はほとんど大きな平野、あるいは盆地に位置していることがわかります。
平野面積ランキング2位は北海道の石狩平野。北海道といえば厳しい自然環境や、どこまでも畑が続く牧歌的なイメージがありますが、札幌市は横浜市、大阪市、名古屋市に次ぐ4位の人口を誇る北日本最大の都市です。人口は約196万人。人口100万人を超える大都市で、年間積雪量が500㌢を超えているのは、世界で札幌市だけです。
平野面積ランキング4位は新潟県の越後平野。新潟市は日本海側最大の都市です。新潟県は明治時代に人口日本一になったこともあります。
5位以下は愛知県を中心とした濃尾平野、大阪府を中心とした大阪平野と続きます。
可住地面積ランキング
可住地面積とは人が居住や経済活動を行うことができる土地の面積のことです。具体的には、総面積から林野面積、主要湖沼面積、そして一部の草地などを差し引いたものを指します。

ランキングの上位を見ると、福島県、岩手県、青森県、秋田県と東北の各県が名を連ねます。これだけ見ると「東北にもっと住めるやん!」と思ってしまいますが大事なのは可住地面積の率。東北は面積が大きい県が多いです。いくら住める場所がたくさんあってもまちとまちが離れていたり、連続性がなければ経済規模はどうしても大きくなりにくいです。
東北には岩手県や山形県、福島県のように全国的に珍しい「海あり県の海なし県庁所在地」が多く存在します。これも内陸側に可住地が多いから。
可住地面積ランキング最下位の奈良県は1番住める場所が少ないということになります。奈良県は北西部に人口が集中しており、南部はほぼ山地となっています。
可住地面積率ランキング
では、続いて可住地面積率ランキングを見てみましょう。一気に上位の顔触れが変わりました。1位は大阪府。そこから埼玉県、千葉県、東京都、茨城県、神奈川県と関東が名を連ねるのは圧巻です。「やっぱり可住地面積率が高いところに人が集まるんだなあ!」と実感させられます。最下位は山が太平洋の近くまで迫っている高知県です。

地形による人口の偏りは日本だけではありません。オーストラリアはほとんど砂漠と乾燥地帯のため、国土の95%は無人と言われています。カナダは気候条件や経済活動の活発さから人口の90%以上がアメリカとの国境から150㌔以内に集中しています。
市町村別の可住地面積ランキング
次に、市町村別の可住地面積ランキングを見てみましょう。1位は人より牛が多い北海道別海町(べつかいちょう)

2位は新潟県新潟市です。特筆すべきは可住地面積率。9割を超えているんですよね。つまり、ほぼ住めるってことです。新潟県や北海道は日本有数の農業王国。平野は住宅地だけでなく、農業や酪農に活用されています。
注意すべきなのが3位の静岡県浜松市。可住地面積率を見ると、3割程度しかありません。浜松市は合併により大規模な面積を手に入れましたが、都会的な南部に比べて、北部は山がちな地形です。
面積を小さい順にすると、離島が名を連ねています。利島(としま)、粟島(あわしま)、渡名喜島(となきじま)…小さくて穏やかな島ばかりです。

市町村別の可住地面積率ランキング
最後に市町村別の可住地面積率ランキングを見てみましょう。東京23区はすべて可住地面積率 100%です。さすが。そして、なんと、可住地面積率 100%のまちが77市町村あります。全1718市町村を訪れた経験も踏まえると「あぁ、あのまちか!確かに平野や盆地で住みやすそうだったな」と納得の顔触れです。傾向としては大都市か、大都市の周辺の衛星都市が多いこと。そして、比較的面積の小さなまちが多いです。つまり"平野の住み良いところだけをくり抜いて"市町村を形成しているパターン。

東北では青森県藤崎町(ふじさきまち)、田舎館村(いなかだてむら)、板柳町(いたやなぎまち)は弘前市の、山形県三川町(みかわまち)は鶴岡市と酒田市の、福島県湯川村(ゆがわむら)は会津若松市の衛星都市。
関東では可住地面積率2位の埼玉県の市町村が多くランクイン。どのまちも東部ですね。蕨市は日本一小さい市で、人口密度日本一。5平方㌔㍍くらいの土地に7万5千人ほど住んでいるって強烈です。どこにでも人が住んでいるイメージですね。
山梨県昭和町(しょうわちょう)は甲府市の、富山県船橋村は富山市の、石川県野々市市は金沢市の、川北町(かわきたまち)は小松市などの衛星都市。
岐阜県南部や愛知県も可住地面積率 100%のまちが多いです。三重県の木曽岬町(きそさきちょう)と川越町(かわごえちょう)は伊勢湾に面した小さなまち。
大阪府も多いですね。兵庫県は阪神地域の尼崎市と伊丹市、播磨地域の播磨町(はりまちょう)が入っています。
可住地面積最下位の奈良県から5市町入っているのは意外。いずれも奈良県北西部に位置しており、奈良盆地に可住地が集中していることがわかります。
四国は徳島県の2大都市である徳島市や鳴門市にアクセスしやすい北島町(きたじまちょう)と藍住町(あいずみちょう)、愛媛県松山市のベッドタウンである松前町(まさきちょう)。
九州は福岡県の最東端に位置し九州で1番小さなまちである吉富町(よしとみまち)、筑後平野の柳川市、大川市、大木町(おおきまち)の4市町と、熊本県熊本市のベッドタウンである嘉島町(かしままち)が入っています。
可住地面積率が高いまちは大都市の近郊や、小さなまちが多いしていることがわかります。

【参考文献】
統計でみる都道府県のすがた
目代邦康『地形のきほん』誠文堂新光、2025.1
高橋典嗣『日本の地形図鑑』ナツメ社、2024.12
松本穂高『なぜ、その地形は生まれたのか?』日本実業出版社、2022.9
竹村公太郎『日本の地形見るだけノート』宝島社、2022.6
金田章裕『地形で読む日本』日経BP日本経済新聞出版本部、2021.11
金田章裕『地形と日本人』日経BP日本経済新聞出版本部、2020.9
文明とインフラ・ストラクチャー第71回(その1)─関東平野から筑後平野へ─
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