日本の7割が山!?1300万人が暮らす訳は【シリーズ日本の実像】
- うらのりょうた
- 4 日前
- 読了時間: 4分
更新日:3 日前

平野と山間部の間のことを中山間地域(ちゅうさんかんちいき)と呼びます。関東や名古屋、関西などの平野部以外は山がちな日本。中山間地域は日本の国土面積の約70%を占めている一方で、人口は約10%に留まります。それでも、1300万人近くが住んでいることになりますので、とても大きな数字です。
中山間地域は、全国の耕地面積の約4割、総農家数の約4割、農業産出額の約4割を占め、日本の農業において重要な役割を担っています。
自然と人の営み
漁業をしている人は海の近く住む、林業をしている人は山の近くに住む。当然のことです。
中山間地域の人々が日本の農業、日本の食卓を支えてくれています。世界情勢も踏まえて、食料自給率を上げるように頑張ってくれている人がいるのです。
山は平野や島に住む人にとっても大切。山の斜面から平野へと流れる川は生活用水や工業用水を運びます。雨が降ると、山の栄養素が川を下り、海の生き物に栄養が行きわたります。海を豊かにするためには山の力が必要なのです。山と海は1つなのです。
北海道えりも町では昆布が絶滅の危機に瀕した際、山で植樹を行い、森を育むことから始めました。
奈良県川上村では2014年に「全国豊かな海づくり⼤会」が開催されています。なぜ、海のない奈良県でこのような大会が催されたのか。それは、川上村が紀伊山地の奥深くで水源を守り抜き、豊かな海を育んできたからです。海づくり大会では平成天皇による放流⾏事も執り⾏われました。
自然の脅威
しかし、中山間地域は自然災害とも隣り合わせ。大雨や地震、火山活動などが引き金となり、毎年のように日本各地で土砂災害が発生しています。
家を建てる場所が悪い、避難所の場所が悪いという声もありますが、おそらくどこに建てても似たようなものでしょう。山と川に挟まれた集落では住める場所も限られています。
平野部に住んでる人の感覚で話してはいけないし、ましてや都市部に移住すべきと簡単に言うべきでもないでしょう。
日本において、完全に安全な場所など1つもないと思います。日本に住んでいる限り、どこでも大雨や地震のリスクはついてまわるでしょう。
山梨県の早川町(はやかわちょう)は早川沿いの県道37号が実質的に町外へ通じる唯一の道となっています。
全国には山の谷間に沿って県道が1本通っているだけの町や村がたくさんあります。その県道に架かる橋が1本でも落ちてしまうと孤立状態となります。逆方向にクルマを走らせれば違うまちに出られるかもしれませんが、とんでもない大回りになります。
心
自然災害があるたびに「引っ越せ」などと心ない声を挙げる人がいますが、中山間地域の実情を知れば、それがあまりに暴論であり、想像力が欠如していることがわかると思います。引っ越して済むような単純な話ではありません。
その土地土地に長い歴史や文化があり、今そこに暮らす人たちには、理由があってそこに住んでいます。「移住するくらいならこの土地で最期まで」と故郷と命で繋がっている人もいます。それも幸せな生き方の1つかもしれません。
集落にはご先祖様だって眠っています。「ご先祖様うんぬんはどうでも良い」「ご先祖様だって『命のためなら引っ越しなさい』と言うはずだ」と外野は言うかもしれません。
しかし、新たな住処を探すにはお金、時間、そして、心の問題があります。
家族全員の人間関係がリセットされますし、移住先で新たな仕事も見つけなければなりません。仮に人間関係を諦めたとしても、引っ越しの費用や雇用は誰が保障するのでしょうか。
そして、何より冒頭で述べた農業や食料自給率の問題があります。地方の荒廃は国土の縮小や隣国からの侵略リスクを高めます。これは中山間部の人だけの問題ではなく、国民1人1人が考えるべき問題です。
【参考文献】
統計でみる都道府県のすがた
目代邦康『地形のきほん』誠文堂新光、2025.1
高橋典嗣『日本の地形図鑑』ナツメ社、2024.12
松本穂高『なぜ、その地形は生まれたのか?』日本実業出版社、2022.9
竹村公太郎『日本の地形見るだけノート』宝島社、2022.6
金田章裕『地形で読む日本』日経BP日本経済新聞出版本部、2021.11
金田章裕『地形と日本人』日経BP日本経済新聞出版本部、2020.9
Comments